音源の認識

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人は音源とその方向を両耳に到達する音圧と位相(つまり時間差)によって把握しているとされています。しかし、視覚と学習も大きな役割を果たしているようです。また、体全体で感じる要素もあるかもしれません。
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補聴器で一番大事なことは言葉がよく聴き取れることでありそれが全てでも大きな問題はありません。しかし、音源がどこかも把握出来る方が好ましいのは当然です。
一般的な補聴器でも両耳装用すればある程度の音源把握効果は認められますが、全く不十分です。音源を正確に把握出来る商品は今のところ在りません。

音源把握について実験を行ってみました。実験のキッカケは、現行ホワイトイヤーの音でした。補聴器では無理と思われていた音源の把握が試作ホワイトイヤーではできたのです。しかもこの試作機はステレオではありません。常識では音源の把握が出来る筈もないモノラルなのです。遠くを走るバイクのエンジン音が、明らかにそのバイクから聞こえる、乗用車やトラックの音も同様でした。実験はステレオ化したホワイトイヤーで行いました。

最初の実験は駅ホーム電車の音。裸耳なら駅のホームで電車がどちらから来てどちらに走り抜けて行くかは当たり前ですがよく分かります。勿論試作ステレオホワイトイヤーでも分かりました。しかし、この音を録音して帰宅後再生して聞くと、臨場感は十分なのに電車の走行方向はまるで分からないのです、電車が前方なのか背後かも皆目分かりません。録音中のモニターでは分かったのに。 (帰宅して聞いて全く分からなかった主因はマイクロホンであることが後日判明、マイクロホンはこの後改良した。しかし、改良前のマイクロホンでも録音時のモニターではどちらに走るかが分かったのは事実。)

次に、大通りで車の音を聞いてみました。約12cm隔てられた二つのマイク(つまりステレオマイク)を道に平行にして設置し、その音をアンプを通して左右の耳で聞いてみました。すると、目の前を車がどちらの方向へ走り抜けたか分かりました。そのまま目を閉じても同様に分かります。

次に目を閉じたまま、マイクロホンの左右をくるりと入れ替えると、車の流れる方向も反転して聞こえます。ところが、その状態で目を開けると、車の移動方向は実際と同じに変わる、クルリと反転するのではなく一瞬にしてフッと境目無く変わる、それは幽霊の出没の様。

この後マイクロホンの改良を行った結果、音源の把握特性は大きく向上しました。そして、このマイクを使って前記と同様に車の音を聞くと、驚くことが起こったのです。
二つのマイクを通りに平行に設置し、その音をアンプを通して左右の耳で聞くと、マイク改造前と同様に目の前を車がどちらの方向へ走り抜けたか分る、勿論目を閉じても分かります。そして、目を閉じたままマイクロホンの左右をくるりと入れ替えると、車の流れる方向も反転して聞こえます。ここまでは前記と同じ。

ところが、目を開けると驚いたことに2台の車がそれぞれ反対方向に移動して聞こえる。つまり1台の車が左から右に走ると、左から右へ移動する音と、右から左へ移動する音が聞こえるのです、目を閉じると1台なのに。
そして、この音を録音したものを帰宅後再生して聞くと移動方向はよく分かります。但し1台なのに2台と言うことは起こらないのです。

音は映像に追従して聞こえるという現象は昔から知られていますが、それはそのように感じられるという認識だったと思います。しかし、一台の車の音が2台の音に聞こえたこの実験結果は、「そのように感じられる」を超えて現実的に聞こえていることを示しています。

マイク改造品をカフェでも使ってみました。音源がどこか大変明瞭、左右は勿論背後か前方かもよく分かります。
ところが、これの録音を帰宅後再生して聞くと、音源が背後か前方かはまるで分かりません。また、左右は分かりますが音源が少し曖昧です。

上記の実験結果から考えられることは一つ、それは視覚が音の聞こえ方にかなり強く影響しているということです。しかし、一般的な補聴器では実像を見ていてさえも分からないので、視覚だけの問題でもないと言えます。

人の耳が音源把握に対していい加減なのには良いこともあります。
例えば、現在のステレオ方式は大変いいかげんな動作をしています。にも関わらずあまり不満は聞かれません。現在のステレオは耳のいい加減さによって成立していると言えます。

冒頭近くにモノラルのホワイトイヤーで音源が把握出来たと書きましたが、この実験で片耳でも音源把握はかなり出来ることを確信しました。勿論、両耳に比べると曖昧だとは言えます。また、音源の遠近は耳穴奥の構造が関与しているのではないかと感じています。


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